With Kodomoで子どもの心とからだを守る事業レポート -子どもの安心・自信・自由と新型コロナ-
本事業は、2020~2021年度にかけて、休眠預金活用事業・新型コロナウィルス対応緊急支援助成「社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業」によってCAPセンター・JAPANが「With Kodomoで子どもの心とからだを守る事業」として4つの事業を実施したものです。
1.社会的養護の現場、知的障がいのある子どもの入所施設等でのプログラム提供
2.オンラインによる市民を対象とした地域セミナーの開催
3.報告書の作成
4.「子どもの権利を広げる」絵本贈呈
Ⅰ.事業の経緯
多くの人に影響を与えるコロナ下ですが、その影響は平等ではなく、社会構造のなかで弱者の立場に置かれている子どもたちに重くのしかかっていきます。私たちはその状況を「しかたないこと」と放置することはできないと考えました。社会とのつながりを実感しにくい状況だからこそ、「あなたは大切な人だ」、「私たちはあなたたちとつながり続けているよ」と伝えなければと考えたのです。
そこで、コロナ禍でより一層暴力に対する脆弱さが強化されているであろう子どもたちとその子どもたちに寄り添うおとなの置かれている状況を明らかにするため、CAPプログラム提供とあわせて、アンケート調査を行うことにしました。
Ⅱ.事業概要
1.実施体制
プログラムを提供するCAPグループとの協働実施のため、まず説明会をオンラインで実施しました(17グループ参加)。その後、グループが施設等に声かけをし、スタッフはセーフガーディング研修を受講の上、実施施設等と協働するという流れで10グループとの協働体制のもとで事業を実施しました。
プログラム提供にあたっては、実施先である施設等と『行動規範 2021』およびセーフガーディングの取組みを共有し、周知・予防・報告・対応という4点について共通認識を持ち、子どもたちが安心してプログラムに参加できる環境を整えました。
社会的養護の現場だけでなく、フリースクール、学童保育、さらにニーズのあった地域の子育て団体にも対象を広げて、社会全体を不安が覆い尽くそうとしている現状のなかで、子どもの暴力に対する脆弱さを少しでも減らすことをめざして、グループと連絡を取りあい、実施体制を整えながら事業を進めました。
2.アンケート調査
※アンケート項目などの詳細は報告書に掲載しています。
3.CAPプログラム実施
社会的養護のもとで育つ子どもたちの施設(児童養護施設、母子生活支援施設)、障がいのある子どもの入所施設、フリースクール、学童、子育て団体、児童相談所など子ども支援行政の17施設で、職員対象17回、子ども対象58回、保護者対象3、計78回の子どもへの暴力防止(CAP)プログラムを提供し、474人が参加しました。
(1)職員ワークショップ(専門職対象)
子どもを取り巻く身近なおとながCAPプログラムを通じて、共通認識を持つことで日常生活の様々な場面で子どもが自分の大切さを実感できる環境を整えていく姿勢をもつこと、さらに子どもが子どもであることに自信をもって、子どもの権利を行使できるような援助がコロナ下においても行える体制づくりをめざして行いました。
対象は、可能な限りの職員・スタッフで2時間程度で行い、感染防止の観点からオンラインで実施した施設もありました。
今回の事業においてはコロナ下ということも重要なポイントとして位置づけ実施しました。施設職員からは、「プログラムに参加し、子どもの権利(安心・自信・自由)を軸に考えることで支援がしやすくなる」、「職員同士で思いや不安を共有したり、視野を広げることができた」という感想が複数見られました。一方で、「制限の多いなかで子どもの安心・自信・自由を保障できているか疑問を持った」という感想もあり、職員が葛藤しながら日々の送っていることが垣間見えました。今回のプログラム提供だけでなく、外部から人が入ることが制限されるなかで、自分たちだけで頑張るしかない状況を社会全体で考えていく必要を感じます。
(2)子どもワークショップ
児童養護施設・母子生活支援施設・障がいのある子どもの入所施設におけるCAP子どもワークショップの提供は、2 つの役割があると位置づけています。
①心理教育として:自分に起きていることを整理できるきっかけ
②人権教育として:自分の大切さを知り、他者との関係を安全に調整する基本的な考え方(知識・スキル)を得る
子どもワークショップは、年齢に関わらず、2日以上で行っています。単純に学年でわけてしまうのではなく、発達段階や男女比や力関係・施設での状況などを考慮してグループ分けを行い、安心して楽しく参加できるように施設との打ち合わせを重ねて、環境設定を行いました。また、地域の子育て団体における子どもワークショップでは、日常を共にしていない子どもたちの参加であることから、子ども同士の関係性などに通常のプログラム提供以上に目をむけて実施しました。
(3)おとなワークショップ(保護者対象)
おとなワークショップは母子生活支援施設の保護者(母親)、フリースクールの保護者、地域の子育て団体の保護者を対象としたおとなワークショップを3カ所で実施し、24人が参加しました。おとなワークショップは、子どもをサポートするおとなを子どもの周りに増やし、子どもをあらゆる暴力から守るおとなのつながりを強化していくことを目的としています。母子生活支援施設、地域の子育て団体において保護者の多くは、コロナ下で感染防止対策として密を避けることが必須の状態で、雑談もままならないなかでつながりが感じられず、孤立感を抱えています。その希薄になっているつながりをつくる機会としても、感染防止に十分に配慮しながら実施しました。子どもへの暴力とは何かや子どもへの暴力防止に効果的なアプローチについて、子どもへの暴力防止のための考え方、子どもへの暴力防止のためにおとなにできることなどについて日常と結びつけながら、わかりやすく伝えることを心がけながら進めました。
4.地域セミナー
子どもの育ちを支える専門家としての施設等の職員の皆さんと協働して、社会課題である子どもへの暴力に様々な角度からアプローチすることをめざしました。オンライン 7 回の実施で 128 人が参加しました。7つのCAPグループが工夫を凝らして企画し、CAPの理念も伝えていく、新しい取組みとなりました。
オンラインによるセミナー実施は初めてというグループもあるなかでどのグループも創意工夫し、何より、協働してくださった施設の皆さんがCAPの理念を理解して、それぞれの方の現場の取組みと結びつけながら、子どもの育ちについてわかりやすく、かつ熱く語ってくださったことは団体にとって大きな成果でした。参加者のWEBアンケートへの回答84人のうち、72人(86%)が、とても良かった/よかったと回答されていたことからも情報を求めるニーズがあること、それに応えるセミナーであったと捉えています。
長く続くことが予想されるコロナ下において、子どもと日常生活を過ごす保護者だけでなく、関心を持っていたけれどこれまで参加する機会がなかったという方にもご参加いただけたことは、子どもの暴力に対する脆弱さを減らす子どもへの暴力防止の運動の裾野を広げることに一定の成果をあげたものを考えています。
5.報告書の作成
報告書は、『With Kodomo で子どもの心とからだを守る」』と題してまとめました(A4サイズ36ページ、2,000 部印刷)。各所に送付し、その内容の一部を今回ホームページに公開しました。
6.「子どもの権利を広げる」絵本贈呈
CAPプログラムに参加した子どもが、日常生活で「自分には権利がある」ことを意識し続け、相談できる環境を強化、子どもの身近なおとなが子どもと繰り返し振り返りや復習できる環境を整えることを目的としました。本事業でCAPプログラムを提供した施設および、これまでCAPプログラムを実施したことがある 55施設の子どもたちと職員に、『きかせて あなたのきもち 子どもの権利って しってる?』(長瀬正子・文 ひだまり舎/当団体HPにおいて頒布)1069冊と子どもたち一人ひとりにはCAPからのメッセージカードを贈呈。また、職員の皆さんにはCCJブックレット⑤『子どもの権利と新型コロナ』(長瀬正子さん講演録/当団体HPにおいて頒布)を282冊贈呈し、子どもの育ちを支えるおとなが共通認識を持って、子どもの権利を意識し続けられる環境の強化をめざしました。
この二つの本の頒布はこちら
Ⅲ.プログラム実践とアンケートから見えてきたこと
ーコロナ禍における子どもの置かれている状況の脆弱さと子どもの力
~社会的養護のもとで育つ子どもを中心において~
報告書より(1)~(4)のみ掲載
(1)コロナ下における子どもたちの心とからだの変化について
子どもたちの心とからだの変化については、職員の33%が「変化があった」と答えています。「②どちらとも言えない」と回答した人の理由の中には「コロナの影響による変化かどうかはわからないから」という記述もあり、変化を感じている人の数は実際はもっと多いのではと思われます。
(2)コロナ下の子どもたちの心とからだの変化について、「①変化があった」と選択した方への設問
いつ・どのような変化(自由記述)
この設問の自由記述からは、一斉休校でそれまでの“当たり前”が突然なくなり、外出や面会・時間・人数などが様々に制限されていき、それらが長く続く状態によって、子どもたちが不安や怖れ、孤立感を持ち、解消できないモヤモヤやイライラのために小さなトラブルが増えたり、子ども間の力の不均衡が強化されたり、スマホやゲームへの依存するような状態も起きていたことがわかります。
これらの状態は、コロナへの不安や制限などに対する不満等以上に、子どもの育ちにとって安心で、安全かつ安定した“環境と人間関係”という基盤が重要であるにも関わらず、それらが同時に不確かで不安定になっていったということではないでしょうか。見通しの立たない状況におとなも不安が高まり、疲弊していき、身近なおとなの不安や怖れがさらに子どもたちに伝染していく・・・。子どもたちは施設という安全なエリアで落ち着いて暮らしているように見えても、感覚的に安心や安全を手に入れているとは限らず、コロナ下においてあっという間に不安や怖れが膨らんでいったのではと思われます。少しずつ落ち着いていくことを「それでよし」と捉えていいのだろうかと考えておられる記述もあり、「コロナだから」だけではない子どもの育ちを支える場の抱える課題が見えてきます。一方で、子どもたちは、時間の経過のなかで自分のできることをやる姿勢やこの状況でも楽しめることを見つけてやってみたり、自分の調整のつけ方を見つけたりと伸びやかな姿を示してくれている表記もあり、改めて子どもの力を感じます。複雑な思いを持ちつつ、感染防止対策に追われながら、子どもを見守り、一人ひとりの状況に対応し、本来の役割である子どもの育ちを支えるために奔走されている職員の姿も浮かび上がってきます。
- 職員の回答(自由記述)
-
*自由記述からの抜粋/類似するものはまとめましたが、ニュアンスに違いのあるものはそのままにしています。
※複数をまとめたものが( )内の数字- 自由でないストレス。外出制限や親や兄弟などの面会制限など(4)
- 外出等の制限により、子どもと1対1の時間が減った。問題が多い子に目が向きがちで、“いい子”の内面に触れる機会が少ない。子どもによってはさみしそうにしている子もいる。
- 自身の空間で過ごすことの安心感を覚えている児童がいる。
- 子どもがコロナ禍の状況を受け入れ、自ら考えていると感じたこと。
- 外で遊ぶ事や、園での夏の外出等、楽しみにしていた行事がなくなった事で不満があったが、コロナ禍でも楽しめるイベントを考えて実施したところ楽しんでいる様子があった。(2)
- 理解が難しい子もコロナ対応に協力してくれて、意外にうまく対応してくれていることが感じられた。
- 施設内の環境を変える取り組みをしました。自分の机やベッドを持たせたことで、良い変化がありました。
- 明らかに体調不良を訴える児童が減った。これは、日頃の予防対策が実を結んだ成果であると感じている。
- コロナ禍になった当初に比べ、子どもたちが感染対策に努めようとしてくれたり、社会的ルール規範意識が高まっていった気がした。(2)
- ボードゲームで遊ぶ子どもが増えた。
- 保護者との面会や外出泊に制限があり、なかなかうまく関係構築ができない(面会時泣きたおして終わる等)
- 職員と一緒に食事をとれない寂しさ。体調を崩し発熱した際に「あいつ、コロナだ!」と言われ、体調を崩す子が悲しそうにしている。
- コロナの第2波、第3波あたりから、子どもたちの中で、制限のある生活があたり前のようになり、部活や学校以外での外とのつながりが少しずつ減ったように感じる。(2)
- 良い意味でも悪い意味でもがおとなが決定することが多くなり、子どもが意見を表明する機会を奪ってしまっていないか不安になる。
- いつもできていたことが出来ないことに対するストレスが問題行動につながった。反対にこの状況だからこそ楽しめることを探していた。
- 休校が延長された時。同じメンバーで同じ1日を過ごさざるを得ず、イライラを向けたり、解消するすべが見つけられなかった。/2020年3月頃、友人たちとも休日や放課後に会うことがなくなり、ストレスを感じている様子が見られた。/スマホへの依存時間も長くなりました。/職員との時間が減った。(25)
- 1回目の緊急事態宣言が出たとき、より一層予防に力を入れていた。(手洗い、うがいや外出しない等)自分の身は自分で守るというような思考が強くなった。
- 外泊や外出が少なくなり、親御さんと会えない分、不安になることが増えている。(2)
- コロナで緊急事態宣言が出て、学校が休みになった頃、いろんなことに制限を掛けられるが、それがしょうがないと諦めるようになった。
- マスクをしていて表情が読めない。外出してリフレッシュさせてあげられない。いつも同じルーティンになっている。(2)
- 外遊びができなくなり、はだの色が白くなった。また、病気がちになっているような気がする。
- 5月頃から食事のテーブルにパーテーションを設置したり、男女で遊ぶ時間をずらしたり、マスク着用を徹底したり、買い物に行くのが難しくなったりしました。(3)
- 昨年の緊急事態宣言で(3月後半~5月頃)休校になり、友達、先生と会えず、生活リズムが作れなくなってしまったこと/朝起きない、登校渋りゲーム(3)
- 外出規制、ユニットでのマスクの着用、学校への行けなさ等から、ストレスがたまってきている。年下児童に対して、年上児童の心のゆとりがなくなり、強く当たる様子も見られた。
- コロナ禍というより施設での生活で、年齢の小さい子どもほど、いろいろな職員に言葉かけをしてもらうことによって、表情があまりなかった子どもが笑顔が出てきたり、脚力がしっかりしてくるなどの成長が見られる。
- 令和2年春~緊急事態宣言が出た時は漠然とした不安や親の不安が子どもの不安を誘発してきたように感じます。怒りやすかったり。無気力な子どもと出会うことが増えたように感じました。(2)
- 不登校のため、出席しないでいい事で、逆に安心した子もいる、ゲーム依存が加速した子もいた。
- 施設生活の中ではある程度制限やルールがあります。それにプラスして”コロナにならないための”制限ができたことで、ストレスを感じていると、感じることがあります。
- 職員の回答(自由記述)
-
*自由記述からの抜粋/類似するものはまとめましたが、ニュアンスに違いのあるものはそのままにしています。
※複数をまとめたものが( )内の数字- 多人数の生活なので、皆の満足度を高め、安心・自信・自由を保障する対応の難しさを感じた。(4)
- 行動が制限されることによって、心のキャパが狭くなる。(2)
- どの家庭にもあるように、園にも子どもを守るためのルールがあるが、それを「縛られている」と感じている子もいるので、理解を促しても難しいところがある場合もある。(8)
- 加害・被害が偏りやすく、物理的に距離を取りづらい。(被害者が性質的に「NO」「にげる」が難しい)(3)
- 社会経験・体験の機会・生活のしくみを知る機会が減ってしまう(外出等の制限もあるため。学校では行事など)。心置きなくチャレンジする場が少なくなっている。(10)
- 自由な外食などできず、TVやDVDの情報が多くなっています。実体験の可能性が今少ない。(2)
- 安全保障が管理寄りになる。(3)
- 院庭で遊べる時間が短縮されてしまったり、容易に外出することも難しいなと思いました。また、外出する際も必ずマスク着用なので、嫌々つけている子どもも居るので仕方ないことだけど、大変で難しいなと感じました。常にマスクの常用を求めている(食堂において)(室内において)(9)
- 保護者や里親さんとの外出、外泊も制限があるので、しんどい思いをしているのではないかと感じている。(6)
- 寮生活なので、あまり子どもにも自由を与えすぎても、怪我やトラブルが起こってしまうので、普通の家庭ならOKにしている事も寮生活ではNGにしていること。
- 子どもたち自身が自由な生活を送れていると感じることが出来ているかわからないため。/確認する機会を持てていない。(6)
- 「安心」「自由」は感じていると思うが、「自信」を持てない子が多いと感じます。
- 考え方、受け取り方、様々な分断を招く要素があり、職員間の意識の違いが、子どもたちにも影響を与えていると感じる。
- 子どもたちが子どもらしく生きていくことに制限が多く感じる。おとなは我慢できても、子どもにはやはり辛いことばかりに感じる。(3)
- 友達が遊びに来たりなどできない。買い物、お出かけなどに行けない。(54)
- 行動を制限させなくてはいけないので、不満が出たりしたが、一方その大切さも教えていかなくてはならない。
- 生活の中での注意事項が増えていると思うが、どこまでやっても不安感があり、子どもたちに安心、自由の保障ができていないと思う。(4)
- ストレスを感じている子もいて、それが爆発したとき。/ストレス発散方法等、なかなか見つけられない。(11)
- 健康であるために、コロナにならないためにやること、共有することが増えた。
- 制限の中で、どれだけストレスを緩和できるかを考えている。(2)
- 自由を制限しなければならず、「コロナだから…」とよく言ってしまうから。/どう伝えたらいいかわからない。(12)
- 職員である自分が感染してしまった場合、子どもにも感染させてしまいかねず、また、子どもが感染した際には隔離する必要があるなど、感染によって、子どもの安心と自由を侵害することとなり、また絶対に自分も子どもも感染しないようにすることは難しいということもあり、コロナ禍において安心と自由を保障することに難しさを感じている。/感染への不安。(3)
- コロナに限らず、親子関係や日本の福祉の状況から、子どもが第一になりにくい現状があるかと思います。
- 子どもに”安心””自信””自由”を感じてもらうにはどうしたらいいか分からないから。
- 行動自粛が求められるこの時世、なおかつ施設という集団で暮らしている子どもたちには、周りに比べてより行動範囲やルールが厳しくなってしまっている。(7)
- 食事場面での黙食、外出のハードルが高いなど、今まで当たり前にできていたことに対して一つ一つ制限がある。/個食を状況によっては子ども達に強いなければならなかったりしたため。(2)
- 一時保護所での混合処遇の中では、被虐待児の要求を受け入れることで、非行少年や精神的問題を有している児童の過度な要求を受け入れざるを得ないため、結果、「自由」への制限がかかりがちです。
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コロナ感染拡大とともに社会全体にさまざまな不安や怖れ、無力感、絶望感が広がり、密を避けるためということで集まる機会が減り、つながりが薄れていっています。すでに孤立していた人たちはより一層孤立し、新たに孤立する人たちが生まれている状態です。国連子どもの権利委員会は、2020年4月8日にいち早く『新型コロナ感染症(COVID-19)に関する声明』を出し、COVID-19パンデミックが子どもたちに及ぼす重大な身体的、情緒的および身体的影響について警告するとともに、各国に対し、子どもたちの権利を保護するよう求めました。もともと子どもたちは、社会構造のなかで弱者の立場におかれ、“子どもだからいい”“子どもだからしかたない“と暴力にあいやすい状態に置かれてきましたが、その状態が非常時において深刻化していくことは容易に想像できます。
今回事業実施の中心となった児童養護施設で育つ子どもの多くは、虐待などで親と暮らせない子どもですでになんらかの暴力にあった体験があったり、様々な要因で生きづらさを抱えています。本来、孤立を防ぎ、安心・安全ななかで、安定した環境、人間関係が提供される回復への道のりを歩むべき人たち。それがコロナという非常時のなかで、施設そのものが孤立させられ、子どもたちは孤立を深めているように感じられます。この状況を「しかたない」と放置することはできません。
現在、社会的養護の下で暮らす子どもだけでなく、すべての子どもがいつ災害等の危機的状況に陥るかわかりません。非常時における子どもの社会的脆弱さという課題は、日常でこそ対策を行うべきものだと思います。予防的観点で、子どもの暴力にあいやすさを減らすことは誰もが安心して、暮らせるまちへの変革につながります。今回得た様々な知見を子どもの社会的脆弱性の低減を図る日常の取組に活かしてまいります。
(3)子どもの安心・自信・自由の保障することへの難しさ
CAPプログラムでは、子どもたちに権利(基本的人権/生きていくのに絶対に必要なもの)を伝え、そのなかでも、子どもにとって特別に大切な3つの権利として“安心・自信・自由”を伝えています。誰かから、怖いめにあいそうになったり、いやなことをされそうになるとこの特別に大切な3つの権利が奪われてしまいます。怖い気持ち、いやな気持ち、怖い気持ちは大切な3つの権利が奪われそうになっていることを教えてくれるセンサーです。この設問では、この“安心・自信・自由”に焦点を絞って伺いました。
「安心・自信・自由を保障することの難しさを感じている」と55%の人が回答しています。コロナ下に限定した設問ではありませんでしたが、多くはコロナ下での様々な制限に言及しており、安心・自信・自由が保障できているか、奪ってしまう側になってはいないかという自らへの問いかけが見えている気がします。一方で、子どもの“安心・自信・自由”を保障するということは、「やりたいことをやらせてあげる」ことではありませんが、そういう思考に陥りがちなことが自由記述から伺えます。管理を強めざるをえない状況がその思考を強めているのかもしれません。施設だけでなく、それがどこであっても、どんな状況であっても子どもの安心・自信・自由の保障はされるべきで、それがかなわない体制が放置されていることは大きな問題です。子どもの意見表明権は危機的状況でこそ、保障される必要があると考えます。現状は、施設に自分たちだけで頑張らせ、責任を負わせており、職員に余裕がなくなるのは当然です。施設の孤立は子どもの孤立です。社会全体で考える必要があると思います。
(4)子どもの安心・自信・自由の保障することへの難しさ 、「①感じている」「②どちらとも言えない」を選んだ理由
制限や管理をせざるを得ない状況では、子どもの権利や子どもが権利行使の主体であることは、二の次になっているのではと危惧します。“安心・自信・自由”に限らず、子どもの権利や子どもが権利行使の主体であることを腑に落とし、“当たり前”にしていくことには時間がかかるのだと改めて感じます。普段から目の前で起きていることを「子どもの問題ではなく、おとなの問題ではないか」と“子どもの視点”から捉え直していくことが、非常時においての子どもの権利擁護の体制の整備・強化につながるのではと考えます。大切なのは“普段の日常”だと痛感しています。
Ⅳ. 今後に向けて
子どもの暴力に対する脆弱さを含む子どもの社会的脆弱性という課題解決へ
今回の事業は、新型コロナウイルス対応緊急支援助成として「社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業」の枠組みで実施しました。“社会的脆弱性の高い”という文脈で考えますと、児童養護施設などの社会的養護の現場や障がいのある子どもの入所施設、フリースクール、学童保育で育つ子どもたちはまさにその当事者と考えられます。
しかし、それ以外の子どもが“社会的脆弱性”を持たされていないかと言えばそうではありません。コロナ下で、多くの子どもたちは何ら説明をされないまま指示に従わざるを得ない状態で、新型コロナウイルス感染症拡大のなかでおとなが抱く不安や怖れは子どもたちに伝染していきました。その状況で外出することができず、「自主休校」を余儀なくされている子どもは少なくありません。また、児童虐待相談対応件数やドメスティック・バイオレンス、ネットいじめの増加など子どもをめぐる状況はコロナ下において明らかに悪化しています。子どもの暴力に対する脆弱さが、強化されている状態と言わざるを得ません。すべての子どもが日頃から、“子どもである”ということゆえに、社会的脆弱性を抱えているのだということを私たちは認識する必要があると思います。そして、そのことへの手当てを普段から行っておかなければ、今回のような感染の集団発生や災害時等において、より一層多くの子どもが脆弱性の高い子どもとして顕在化することになります。社会的脆弱性の高さは子どもの問題ではなく、社会の課題。非常時に備えて、普段から、子どもの暴力に対する脆弱性を含む社会的脆弱性を低減する取組みを行わなければならないと今回の事業を通じて強く感じています。
本事業は、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)による休眠預金活用事業・新型コロナウィルス対応緊急支援助成「社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業」(資金分配団体:公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)として実施しました。
本報告は、報告書(A4サイズ36ページ)の抜粋版となります。
報告書をご希望される方は、CAPセンター・JAPAN事務局にご連絡をお願いいたします。
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