障がいのある子どもたちへのプログラム

障がいのある子どもはあらゆる形態の心とからだを傷つけることにあいやすい状況におかれています

障がいのある子どもの暴力(障がいのある子どもの心とからだを傷つけることすべて)にあいやすい状況については、2014年9月に行われた第20回日本子ども虐待防止学会学術集会(第20回国際子ども虐待防止学会世界大会を兼ねて名古屋で開催された)の分科会「障害児虐待の対応と予防」でも取り上げられている重要なトピックです。
 
児童虐待 障がい児の被害7.2%(児童相談所2000年度受理)

全国の児童相談所が2000年度に受けた児童虐待の相談中、障がい被害は少なくとも1,008人(男児588人、女児420人、虐待として受理された相談は13,983件)と全体の7.2%を占めたことが、昨年度の厚生労働省厚生科学研究班の調査で分かった。このうち知的障がい児が788人と最も多い一方、加害者は実母が700人と69.4%に上った。児童相談所を通して障がい児の被害実態を調査したのは初めて。研究班は「虐待を受ける障がい児は健常児の4~10倍とも推計される」と指摘している。
障がい別の内訳は知的障がい児788人、身体障がい児159人(肢体不自由児87人、聴覚障がい児31人、内部障がい児22人、視覚障がい児19人)、注意欠陥多動性障がい(ADHD)児91人など。
主な虐待内容はネグレクト(養育放棄)416人(41.3%)、身体的虐待398人(39.5%)、心理的虐待65人(6.5%)、性的虐待32人(3.2%)。また、主な虐待者(複数回答)は実母が700人、実父265人、義父57人などだった。2001年障害者白書などによると、障がい児中の被虐待児割合は1000人中5.4~7人と推計される。一方、未成年者中の被虐待児は1000人中0.6~0.7人と推計され、「障がい者統計にないADHD児らの存在に配慮しなければならないが、障がい児は健常児の4~10倍の割合で虐待を受けるとも推定される」という。


肢体不自由児施設における被虐待児の実態調査――障害児と虐待についての検討

全国65肢体不自由児施設を対象に被虐待児の実態調査を行った。39施設(60.0%)で被虐待児が145名入所していた。二次調査で回答があった141 名では、84名(59.6%)が乳幼児期に初めて虐待が生じており、身体的虐待86名(61.0%)、ネグレクト71名(50.4%)、保護を入所目的とするものが97名(68.8%)だった。虐待の結果後遺症として身体障害が生じたり障害の程度が悪化したのは52名(36.9%)で、このうち頭部外傷後遺症が最も多く38名だった。子どもの疾病・障がいが虐待の要因となっていたのは75名(53.2%)で、一般地域での実態調査と比較すると18倍だった。出生後長期収容分離、望まない妊娠・出産、育児負担過大など、障がいに関連する要因も高くなっていた。これらの結果は、以前から指摘されているように、障がい児は虐待を受けるリスクが高く、虐待による後遣症として様々な障がいが生じることを実証している。
『子どもの虐待とネグレクト5巻2号(2003年12月)下山田洋三、岡安勤、武田麻里』

 
これらの研究からも、障がいのある子どもはいわゆる健常の子どもたちより一層、暴力に対して脆弱な状態におかれており、暴力を受けやすい存在であることがわかります。
また、虐待だけでなく、幼稚園・保育所・学校等において、からかいやいじめなどにあう可能性も大いにあります。CAPの取組の中で通常学級に通う子どもが子どもワークショップ参加後のトークタイム(CAPスタッフとの個別の復習と練習の時間)で「〇〇学級(特別支援学級)の子どもが他の子どもから蹴られたり、からかわれたりしているのをずっとおかしいと思っていた」と話し、その後学校全体で特別支援学級の子どもへの理解の取組につながったというケースもありました。障がいのある子どもへの暴力はその子だけの問題ではないということがよくわかるケースです。特別支援学級の子どもたちへの暴力防止のための予防教育の取組は、学校全体が安心して日常生活を送るための取組とも言えます。

早い段階から障がいのある子どもたち、そしてその障がいのある子どもたちと関わる人たちに対して、暴力防止のための予防教育を繰り返し行うことが重要です。障がいのある子どもたちは情報が届きにくく、普段の生活の中で周囲の支援の仕方によっては無力感を抱きやすく、孤立しがちです。それは、障がいのある子どもたちが暴力を受けやすい状況を強化していることにほかなりません。「障がいがあるから」という理由で、権利主体として自分を守るための予防教育から遠ざけられているのです。未然防止、発生防止、再発防止、悪化防止の4つのフェーズに対応する予防の取組みを積極的に行うことが必要です。
障がいのある子どもたちが予防教育に参加することは、暴力の「被害者にならない、加害者にならない、傍観者にならない」ことをめざすものです。障がいのある子どもたちは決して無力ではありません。ぜひ、障がいのある子どもたちが予防教育に参加する機会としてCAPプログラムをご活用ください。
 

障がいのある子どもへのCAPプログラムーゆっくりスモールステップでー

障がいのある子どもへのCAPは、子どもたちの障がいの特性にあわせて通常のCAPプログラム提供より、時間や日数かけて実施します。また、CAPで得た概念や言葉・スキルを使い、子どもたちにとって使える道具にしていくためには日常での継続的なサポートが必要です。そのため、通常のCAPプログラム提供より一層、先生との協働が重要になります。地域のCAPグループは、まず教職員ワークショップを丁寧に行い、プログラムについてご理解いただいた上で、現場の先生と相談・打ち合わせをし、楽しく、分かりやすく子どもたちが学べるように配慮しています。

また、保護者ワークショップを実施し、学校だけでなく、家庭・地域でも繰り返し、一貫性を持って、障がいのある子どもが力を発揮できる環境づくりを行っています。日常生活で繰り返し継続して、周囲のおとながCAPプログラムで学んだことを活用して支援していくことが、障がいのある子どもが自分を守る力を発揮できるようになっていきます。
 

スペシャルニーズプログラム(軽度~中程度の知的障がいのある子ども対象)の構成

このプログラムは、知的障がいのある子どもたち(軽度~中程度)を対象とするプログラムです。子どもたちが見通しを立て、安心して参加できるように先生が実施する2日間(予習、復習日)と、CAPが実施する3日間を併せて5日間で構成されています。年齢は小学生~高校生まで、それぞれの理解力や切り替えがうまくできるかどうか、さらに生活年齢等を考慮したアプローチを行います。文字パネルや絵パネルなどのツールで抽象的な概念の理解を促進したりする等の伝え方の工夫も行っています。子どもワークショップが終了した後に、CAPのスタッフと教職員との振り返りを行います。

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スペシャルニーズプログラムの子どもワークショップの様子
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スペシャルニーズプログラム子どもワークショップに参加した先生・職員の感想

・自分の気持ちを相手に伝えること、協力してもらえることをロールプレイから目で見て学べてよかった。
・安心な触り方、いやな触り方は確認し、ロールプレイで良い例をしていただき、子どもたちの反応も良く理解しやすかったと思う。
・嫌な触られ方やキスを迫られる(秘密にする)など、拒否してもいいんだ、我慢していいんだということが良く伝わったように思う。
・場面設定がわかりやすかったので理解しやすかったと思う。
・不審者などの対応は実際にシチュエーションを通してこういった場合にはこうするということがわかりやすく子どもたちへの伝わったと思う。
・相手に対して子どもたち同士でくすぐる遊びをしているときは、「うれしい」「いや」の境界線は子どもたちには難しいところがあると思いますが、「うれしい」ときもあれば「いや」なときもあることがわかったと思う。
・プログラム参加前より、「イヤ」の意思表示、職員への報告が増えたと思い、子どもたちの意識に変化が出たと思う。
・Kさんは特に興味を持ってくれたようで最後にいただいた冊子をしばらく持ち歩いていた。
・動きをつけた「安心・自信・自由」は親しみのある言葉になったと思う。
・スモールステップで構成され、視覚的にわかりやすい劇はよく伝わったと思う。
・言葉がすごく丁寧でゆっくりしていて、「安全」「安心」がすごく意識されていたので、子どもたちも構えることなく参加できていたと思う。
・生活場面ではあまり取り扱わない内容が多く、子どもたちは具体的な対応の場面では被害にあわないため、どうするかがわかりやすく伝えられたと思う。
・小さな変化だと思うが、「イヤ」の言い方も自信を持って断っているシーンをみかけた。
 

障がいのある子どもの入所施設でのCAPプログラム実践

2013年度から、障がいのある子どもの入所施設(主として知的障がいのある子どもの入所施設)でのCAPプログラムの実践の試行を行っています。
CAP子どもワークショップに参加する子どもに関わる施設職員がすでにCAPの考え方やメッセージを知っていることになり、CAPの提供した言葉や概念が子どもとおとなの共通理解となります。これは子どもの話しやすい環境の整備につながり、セイフティ・ネットづくりに大きく貢献するものです。また、職員が障がいのある子どもの人権について学び、権利主体である子どもの心とからだのサインに気づき、子どもを支援するために学び合う場を設けることは、施設全体の子どもを守る力を高めます。
おとなが自分たちの学んだことをすでに知っているということは、子どもたちを何よりも勇気づけることになります。CAPは誰にとってもわかりやすく、誰もが使え、日常で継続して活用できるものだからこそ、施設内での障がいのある子どもへの暴力に対する予防の効果が高まります。

第1段階 施設職員ワークショップ(2回)
子どもたちと日常生活を共にする職員の皆さんにCAPの考え方をご理解いただいた上で、子どもたちのニーズにあわせたプログラムを選択していただくこと、CAPプログラムを日常に生かしていただくことに重点をおいた構成にしています。
※障がいのある子どもの入所施設ではスペシャルニーズプログラム・プレベース・ベーシックベース・プレ+ベーシックの中から子どもにニーズにあわせて選択することになります。

第2段階 子どもワークショップ
子どもワークショップは、職員の皆さんが行う予習日・復習日を前後にとり、CAPが実施する3日間の計5日間での実施となります。基本的に10人程度のグループで実施します。障がいのある子どもたちが生活する場所での実施となるため、プログラム選択や日程調整、グループ分けなど子どもたちが安心して参加できるように十分な打ち合わせを行っての実施となります。

 

リーフレット(PDF)

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