社会的養護の当事者支援活動

森本 志磨子
大阪弁護士会所属弁護士
CAPセンター・JAPAN 監事

社会的養護の当事者支援活動

 
1 CVVの活動について
私は、2001年秋、弁護士1年目の終わりに、近畿弁護士連合会主催のシンポジウムでの講演で、CVV(Children’s Views and Voices)と出会いました。CVVは、児童養護施設(以下、「施設」といいます。)で暮らす高校生と施設を退所した大学生たちが作った任意団体です。私にとって、児童養護施設を初めて身近に知るきっかけとなりました。
CVVの発足は、カナダのPARC(ペイプ青少年自立支援センター)を施設の高校生や大学生たちが訪問したことに始まります。CVVのメンバーは、カナダで自分たちと同じくらいの年齢の子どもたちが、里親のあり方や自分たちの将来などについて、堂々と、そして生き生きと話す様子を見て大変驚き、自分たちも日本で何かできることがあるのではないかとエンパワーされて帰国し、日本初の児童養護施設当事者グループを作ったのです。
主な活動は、「みんなの会」「よりみち堂」「でまえいっちょう」「ユースの会」、講演等です。詳細をお知りになりたい方には、ぜひCVVのブログ(「CVV」「ブログ」のキーワードで、ヒットします。更新はゆっくりです。)を見ていただけたらと思います。「みんなの会」では、施設入所中の中高生を対象に、スポーツ、遊び、クラフト、ワークショップ、お泊まり会、忘年会、先輩への質問会、卒業祝い会など、年に6~8回実施しています。退所後の子どもたちを孤立させることなく、CVVを一つの居場所として、さまざまな人と出会え、相談ができ、自分らしく居られる場にするためには、施設入所中から顔の見える関係を作り、体験を共有していることが大切だとの考えから、始まった活動です。
「よりみち堂」は、退所後の子どもたちや一般の方を対象に、一緒に晩ご飯を作って食べる会です。退所後の子どもたちが気軽に立ち寄り、施設の懐かしい話や近況などを話したり、時には気軽に相談したりできる場にしたいとの考えから、始まった活動です。しかし、最近は、一般の方で当事者と話したいと思う人たちの方が多く集まるようになり、退所者の昔話や相談の場等にはなりにくくなってきたため、数年前から、「よりみち堂」とは別に「ユースの会」が開かれるようになりました。「ユースの会」では、10代、20代の退所した当事者を中心に、CVVのスタッフは数名のみが参加して、食事会や家庭訪問等を実施しています。まだまだ手探りの段階ですが、平成25年度は、一人暮らしを始めて間もない人や、大学での勉強とアルバイトの両立、職場等での人間関係、親との関係、経済的な問題、賃貸等の生活上の問題などについて悩みを抱えていると思われる人たちを、毎回一人ずつ声かけして呼び、その他のメンバーは自由参加という形で、小規模でのユースの会が月に数回のペースで行われました。そうすると、具体的な悩みがたくさん浮かびあがってきました。当事者本人は、悩みを悩みとして認識していない場合も少なくなく、近況等を雑談している中で重要な問題についての悩みがCVVメンバーやスタッフにより少なからず拾われることとなりました。それらの悩みについては、解決に向けて少し前進することができたものもある一方で、当事者本人がさまざまな理由で問題解決に向けて一歩を踏み出せないままでいたり、連絡が途絶えがちになったりしているものも少なくありません。
2 施設の当事者からの相談で大切にしてきたことや配慮が必要と感じたこと
私は、ユースの会には参加していませんが、拾い上げられた具体的な悩みのうち、法律的な問題に対応するほか、情報共有やケース会議の場には時折参加しています。また、施設の先生からの相談や、弁護士として少年事件として関わった当事者から相談を受けることがあります。そこで、CAPに関心をお持ちの方は、施設の当事者と出会ったり、相談を受けたりされることもあることと思いますので、私が弁護士あるいはCVVのスタッフとして、10年余の間施設を退所した人たちと関わり相談を受ける中で、私が大切にしてきたことや配慮が必要だと感じたことについて3つだけお話したいと思います。
第1に、相談者の自己決定・自己選択をいかに保障するかという点については、まずは、話をする中で、本人の理解のスピードや能力を把握し、必要に応じて考える範囲や選択肢を減らし、段階を踏んで選択をしてもらえるように気をつけています。また、「わからない」と自分から言えない相談者も少なくないので、説明を自発的に繰り返したり、途中で何度もわからないところがなかったかを聞いて確認したり、返事がなくても、自発的に説明を繰り返すようにしています。なお、相談者の中には、自らすでに答えをもっていてそれにお墨付きを与えて欲しいと思っていたり、自分で決められないので決めてほしいという欲求を持っていたりすることもあります。前者の場合には、率直にお墨付きを与えることはできないことを伝えますし、後者の場合には、メリットデメリットを一緒に紙に書き出して考えを整理する作業を一緒に行なったり、いろんな質問をすることで自分の気持ちに気づいてもらえるよう努めています。自分の信頼できる人3人以上に相談するよう勧めることもあります。一般に、自分で決めたと思えていないと、いざというときに他人のせいにしてしまいたくなるものなのだと思うので、時間がかかっても本人に自分で決めてもらえるようできるだけ根気強く待つよう努めています。
第2に、退所者の多くは、家族機能が低下あるいは機能不全を起こしているため、他人から情報を得、必要な相談をし、助けを求めることが有益だという実感を持てていないことが少なくありません。また、家族といったわかりやすく自分を必要としてくれる存在が少ないためか、自分は生きていてよい、自分のような人間が一人くらいいてもよい、といった自己肯定感を持てていない人が多いです。そのため、退所者の相談を受けるにあたっては、自分で対処する能力のある人には、通常の相談と同様に、いわゆるアドバイスをすることで足りると思いますが、他方で、アドバイスをしてもそのとおり行動できない・しない人も少なからずいて、やると言いながら結局やらないで、途中で連絡が途絶えてしまう、ということがしばしばあります。その意味で、退所者の相談においては、相談にプラスアルファして一緒に伴走することがとても重要だと感じています。提出書類を一緒に作成する、役所まで一緒に出向く、窓口で具体的にどのように言ったらよいかを説明する等です。あくまで伴走であり、当事者ができることはできるだけ自分でやってもらうように努めています。
また、相談を受け、その解決に向けて一緒に考えて対処していくときに、相談を受けた人だけですべてを抱え込むのではなく、できるだけ当事者に関わってもらえそうな支援者・理解者を巻き込み、共同したり、バトンタッチしたりするように努めています。退所者の持つ人的資源は絶対的に乏しい、という厳しい現実があるため、相談を通じて、当事者の人的資源を少しでも増やせないかという視点をもって、対応できるとよりいいのではないかと思うからです。
第3に、若い当事者は、家庭の機能低下・機能不全や社会経験が相対的に少ないことなどのため、社会への関心が低くなりがちで、一定の知識が不足しているように感じることもあります。そのような場合には、知らないということについて恥をかかせたり、説教調になったり、劣等感や不全感を感じさせることのないよう、配慮しています。「知っているかもしれないけれど、・・・」「私も若いときは知らなかったことなんだけど、・・・」といった言い方をしたり、さりげなく、言い換えて具体的な説明を加えたり、知らないことは聞けばよいのであり恥ずかしいことでも何でもないということを自分の経験を踏まえて話したり、率直に伝えたりしています。
3 最後に
CVVのメンバーを始め、施設で育った当事者は、多かれ少なかれ、10代、20代という若さで、親や大切な人との死別や別離、極貧、借金の取立て、愛されたい人からの経済的搾取や裏切り、高校生で大学資金や携帯電話代を稼ぐために時にはクラブ活動をあきらめバイトをせざるを得ない実情、退所後10代の若さで完全な自立を強いられる現実など、一生経験することのない、あるいはもっと年を重ねてから経験すると思われるような、辛く過酷な現実を、幾重にも突きつけられ、周囲の思惑に翻弄された経験を持っています。よくぞ生き続けてくれた、よくここまでがんばってきたと、生き証人のような彼や彼女らの存在そのものに感動するとともに、大切なことをたくさん教わってきました。同時に、当事者の中には、望まない過酷な現実や翻弄された経験なども影響してか、真剣なまじめな話を意図的に避けたり、しんどくなるとその気持ちを伝えることなくいきなり連絡を絶ったり、少し手を抜いたりすることが苦手で、頑張って完璧にやりすぎてある時一気にすべてをやめるといった極端な態度が見られたりすることが、少なからずあります。人間関係をうまく築けず、自分から人を遠ざけ、精神的にも経済的にも困窮している当事者もいます。
当事者と一言で言っても一人ひとり異なります。一人でも多くの人が、出会ったその当事者に対し、時には不器用だけれど尊敬に値し、学ぶべきところのある対等な存在として、いい意味で緩く大雑把に、細く長く、義務感ではなく関心をもって、関係や関わりを続けていけたら、その当事者はきっと少しは人生を肯定的に受け止められるようになっていくだろうし、周囲にいる私たちもきっとそのようになるのではないかと思います。
(CAP NEWS25号<2014年3月発行>より転載)

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