子どもの権利条約を活かして子ども最優先の社会に

甲斐田 万智子
認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)

子どもの権利条約を活かして子ども最優先の社会に

~採択20年を振り返って

私がCAPと出会ったのは、1996年インドから帰国したときでした。帰国後に私がスタッフとなった国際子ども権利センター(シーライツ)が、その年の「子どもの権利条約フォーラム」の事務局を担ったのですが、CAPのワークショップに一参加者として参加し、目からウロコの体験をさせていただきました。特に、子どものときに性暴力を受けた人の中には、おとなになったときに誤った力の行使の結果、性的虐待の加害者となってしまう人がいる(もちろんすべての人ではない)という説明でした。被害に遭った子どもの話を一日も早くおとなが聞いてあげて、そうした子どもが回復する手助けをすることが大事であると痛感しました。

その後、2001年に横浜で「第2回子どもの商業的性的搾取に 反対する世界会議」が開かれ、シーライツは当日だけでなく、その準備段階から子どもたちのためのワークショップにかかわることになりました。そうしたワークショップで子どもたちが自分の体験を打ち明けたくなったり、苦しくなったりしたときにそれらにきちんと対応できる人を会場に用意しておくことの大切さを知りましたが、その役割をCAPの方が担っていらっしゃいました。

2008年にはブラジルで開かれた「第3回子どもの性的搾取に反対する世界会議」に参加する機会が得られましたが、その分科会の1つが「性的加害者に対する精神的社会ケア」というテーマでした。この分野においてブラジルを初め多くの国で人々が10代など若者の加害者に対して精神ケアを進めていることを知り、国を超えて経験交流することの重要性を感じました(詳しくはシーライツ発行「ブラジル会議報告書」をご覧ください)。

昨年、国連子どもの権利条約が採択されて20周年を迎えました。20年前にこの条約がつくられたとき、多くの国の政府が、自国で子どもが性的搾取されている事実を認めようとしなかったことを考えると、性的搾取からの保護、および、それらの被害から回復という子どもの権利が定められ、その後、多くの国でこの権利を実現するための取組みが始まったことは意義深いことだと思います。

子どもの権利条約は、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の4つに大きく分けられ、それぞれの権利実現において進展と課題がみられます。5歳の誕生日を迎えることができずに亡くなってしまった子どもは1990年に世界で1250万人だったのが2008年には880万人に減りました。しかし、今でも一日2万4千人の子どもが予防可能な病気で亡くなり、家庭で虐待死する子どもも後を絶ちません。

 

「育つ権利」には「教育を受ける権利」「遊んだり休んだりする権利」などが含まれますが、小学校に通えていない子どもたちの数は減少したとはいえ、今でも1億人の子どもがこの権利を奪われています(2002年は1億1500万人)。条約は、性的搾取のほか、暴力、人身売買、児童労働、武力紛争など有害なものから子どもが「守られる権利」を定めています。1998年、2億5千万人だった児童労働者の数は2004年には2億1700万人に減少し、特に危険な労働に従事する子どもは減りました。それまで「貧しい子どもは働くのはやむを得ない」と考えられていたのが、「どんなに貧しい子どもであっても危険な労働につかせてはならない」と社会の考え方が変わっていった条約の一つの成果といえるでしょう。しかし、最悪な形態の児童労働と呼ばれる、性的搾取、人身売買、子ども兵士の問題は深刻化しており、債務労働に苦しむ子どもはまだまだたくさんいます。

2006年に発表された『子どもに対する暴力』国連調査報告では、すべての国において子どもに対する暴力が存在し、子どもが深刻なダメージを受けていると結論づけ、今まで黙認されていた子どもに対する暴力のあらゆるものに「NO!」と言っていこうとする動きが世界中で広がっています。

世界の現場に目をうつせば、「参加の権利」は最も進展がみられた分野といえるかもしれません。「参加の権利」とは、子どもが意見を表明する権利、表現する権利、集会を開いたり、グループをつくったりする権利、適切な情報を十分に得られる権利ですが、おとなの態度やスキルと深くかかわっています。つまり意見表明権は、「子どもがきちんと意見を聞いてもらえる権利」ですが、おとなの側にどれだけ子どもの声を真剣に聴こうとしているか、その声を活かそうとしているか、そういうスキルを身につけているかということが問われています。条約採択後、世界中の子どもにかかわる人の間で、子どもに対する見方を180度変え、子どもを受益者や対象とみなすのではなく、共に問題を解決していくパートナーとしてみなしていくようになりました。例えば、私たちシーライツが支援するカンボジアのNGOでは、ストリートチルドレンの声をきちんと聴き、政策決定者にその声を届ける場を設けるなど子どもを権利の主体として尊重し、子どもと共に活動しています。それまで社会から蔑まれ暴力を受けてきた子どもたちがこうしたおとなたちに支えられて、自尊感情を取り戻し、自分を大切に思えるようになっています。

しかし、日本を振り返ってみると一体どれだけ子どもの声が大切にされ、その声が社会の中で活かされているといえるでしょうか?子どもに権利を認めるとわがままになるという誤った考えが是正されるどころか、むしろ子どもたちが間違いを犯したときに厳罰化が求められるなど、日本の状況は世界の流れに逆行しています。多くの子どもが子どもにも権利があると知らされず、社会から大切にされていると感じられないまま子ども時代を終えています。これまで国連子どもの権利委員会は、そのような状況を改善するよう日本政府に対して勧告をしてきましたが、政府はそれらに応えようとしていません。今年5月、日本は子どもの権利実施状況に対して第3回目の審査を受けます。子どもの権利を守るために、一人ひとりが子どもに優しいまなざしを送るとともに、法的拘束力のある条約と子どもの権利委員会による勧告を子どもたちと共に使い、子どもの権利を最優先する社会に変えていくことが求められているのではないでしょうか。

国際子ども権利センターのHP http://www.c-rights.org/

(CAP NEWS 17号<2010年3月発行>より転載)

 

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